花霞記

社会人の日記

貧の意地 ちょっとリライト

 

    ドラマ『獣になれない私たち』 を最新話まで一気見した。脚本家の人が気に入っていて、今日までに『アンナチュラル』や『逃げるは恥だが役に立つ』のドラマがどれも好きだった。

 

   リライト作品を創作する授業で、貧の意地バージョンを読んだ。今までのもそうだけど、作者が女性だと女性一人称語りが書きやすいのだろうな、と痛感。貧の意地なら、お金を善意で出してくれてる誰か目線で書いた方が面白みがあると思うのだけど。

 

 

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   落ちぶれていると、世間で言われようがなんだろうが私は私である。

   年の瀬となり、世間は正月祝いの準備でせわしなくなってきている。それとは別に私の時は、妻がいなくなってから止まったかのように過ごしてきた。とても裕福とはかけ離れた生活。拙宅は狭く四畳半で、木の板一枚で外との境界を敷いているだけにすぎず、隙間風もひどい。部屋にはこれといった家具は置いていない。しかし、奥には自分でこしらえた神棚がある。このままでは福の神が裸足で逃げ出してしまうに違いなのだが、金一枚を供えておき丁寧にもてなしてきた。

    日も暮れ、熱燗を恋しく思いながら白湯を飲んでいた時、長屋友達の原田の妻が訪ねてきた。なんでも今夜宴会をするから来て欲しいというので二つ返事に受けることにした。私を含め長屋には世間からはじき出された者が住んでいる。

   原田は武士のでらしいが、武士らしい気品は見る影もない。私の言えたことではないが。 原田の家には最近米屋や呉服屋がツケの取り立てへやってきては追い返されていたようだった。宴会をする金は一体どこからくるのだろうか。私たち参加者から巻き上げる算段やもしれぬ。そうなっては困るので、お守りがわりに神棚の金一枚を懐へいれて家を出た。

   原田の家に行くと見慣れた顔が揃っていた。原田の家もまた狭いのに、野郎が詰めているで蒸している。思わず怪訝な顔をしてしまったが、寒いよりはましだ。ちょいとちょっとといって私も座りなんだかんだと話していたら、原田の妻が熱燗を持って振舞ってくれたのでもうなんでも許せそうだ。酒もまわり、噂話や過去の栄光や捏造に詭弁が飛び交ってきた。嘘だね、と決めつけると彼らは躍起になって論を重ねるからやっかいだ。腹の底ではわかっていることに適当にアイ、そうですか、と答えながらアツアツの酒を飲むのが愉快でたまらなかった。ドンドンと床を叩く音がして皆振り返ると、奥から何かを引っ張り出してきた原田がニマニマとして立っていた。

   なんだなんだとみると、原田はわたくしは万年貧の病に苦しんでいたのですが遂に妙薬を親戚から手に入れました。どうぞどうぞ手にとってご覧ください。と饒舌になる。 回された者は、ははぁん良いものをお持ちになりましたね、と笑いをこらえながら畏まって言う。なにかと思って見てみると、金が10枚も入った包に この辺りの医者の名前と貧の病に服用すること、と書いてあった。

    妙薬がまた原田の手に帰ってくるころ、この宴も皆さまへの日頃の感謝であるから今日はみなさまお金も気にせずどうぞ、と原田の妻が言う。我々がおぉ、と盛り上がるなか女はしゅくしゅくといくつかの皿を下げていった。

   金の心配がなくなれば皆まだまだ飲む。神と仏のどちらが優位なのか、の論議に武士葛木と坊主佐々木がもめだした。ただでさえ狭いのに暴れられてはことだと間に入ってなだめていると、金が一枚足りないと原田が言い出した。

   皆血相を変えて部屋をさがしたが、見つからない。そもそも狭い部屋のどこに落ちて金が隠れるというのか。まだ酔っている佐々木が着物の帯を解き、我仏の道のものなり。とブツブツ言いながら裸になり身の潔白を示してきた。佐々木を見たものが、疑われてはしゃくと脱ぎ始めたところ、葛木がワァと泣き出した。

    年の瀬として金を工面していたのが仇となった。私は決して盗みなどしてはいないが、この場で金をもっていることがなによりの証拠。この恥と汚名を晒しながら生きていくことはできない。ああさらば今生。と早口に言っては今にも切腹しそうな勢いで立ち上がった。その場の者の目が葛木に向けられたのがわかった。私はスッと灯の元へ近づき暗闇から、アァ!こんなところに!とわざと大声を出して手に持ったものを原田に見せた。まちがいなく金一枚が私の手元にあった。佐々木の命や、この場にいるものの友情と金一枚どちらが大事かなど、酔っていても素面でも同じ結果。

    半裸の輩も皆口々に良かった良かったと腰を下ろし始めたところ、原田の妻が奥から走ってきて、金がここに!と大声で重箱の蓋の裏をみせてきた。これで原田の元に金が11枚あることになった。

   原田は誰かが金を差しだしたに違いないと見抜き、名乗り出てくるように命令してきたが、はい私ですと出ていくような空気ではない。重い時間が流れ気づけば日が昇り始めていた。

   余りの金を玄関口の陰におき、一人ずつ帰るようにと足止めされた。本当の持ち主がそっと持ち帰るように、と言われた。私の順番は遅く、果たして皆正直にいるだろうかと内心ヒヤヒヤしていた。

   家に着くと私は冷え切った金を神棚に戻した。新年もまたあの長屋の馴染みでうまい酒が飲めるように祈願した。

 

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お酒飲んでるあたりから面倒になった。